sugi杉谷汰一選手 平成30年~猿田興業(軟式)。2012年第94回全国選手権秋田大会をサヨナラ勝ちで制した秋田商は、翌年の大会も決勝に進んだ。だが優勝候補ではなかった。前年の主力のうち、レギュラーで残ったのは主将の杉谷汰一選手だけだった。「史上最弱と言われたチーム。勝てなかった」。前年の秋、この年の春の大会は早々に敗退。夏はノーシードからの戦いだった。強みは杉谷選手を中心にまとまったことだ。「おれについてこい、と背中で語る主将。僕も他の選手も信頼していた。連覇したいという気持ちが、杉谷から周りに少しずつ伝わっていったんだと思う」 角館との決勝は延長にもつれ込み、15回まで進んだ。監督として経験したことのないイニングだった。3-3で迎えた十五回表の守り、秋田商はピンチに立たされる。一死三塁、スクイズを仕掛けられた。だが捕手への小飛球となり、併殺で窮地を脱した。「助かったのは運だけ」。守備から戻った選手が円陣を組むと、「再試合だぞ。よく頑張った」 と声をかけた。2年生エースの佐々木泰裕投手は全イニングを投げきった。翌日のことで頭がいっぱいだった。ただ、1人だけ監督の言葉を聞いていなかったのが、その回の先頭打者で、打席に入る準備をしていた杉谷選手だった。その主将が口火を切る右前安打。1死満塁で三塁走者になると、三浦大貴選手の浅い右犠飛で足から突っ込み、甲子園への切符をもぎ取った。2大会連続のサヨナラ勝ちだ。「三浦の打席で、『 (飛球になりやすい) 右方向へ打て!』 と指示したら、三浦が手をひらひらさせて『わかってますよ』みたいなしぐさをしたんです」「こいつー、と思ったけど、あとでビデオを見ると、先に三塁走者の杉谷が何か指示している。多分、『フライを打て。おれは突っ込むから』 だったんでしょう。選手同士がしっかり了解を取り合っていた。だから迷いが生じなかった」 選手の顔ぶれは毎年変わる。だが、みんな個性的だ。「試合の勝ち方は無数にある。でも、全体で目標に向かっていくようにするやり方は、そんなに多くはないと思う」。太田監督は就任10年間で、少しずつそれがわかってきたという。(山田佳毅) 朝日新聞バーチャル高校野球