
<毎日新聞2015年03月15日地方版> 野球部のスローガン 「笑顔・結束・全国制覇」。そこに通底するのはチームワークだと言っていい。気持ちの良い笑顔は良好な雰囲気からしか生まれ得ないし、結束はすなわちチームワークにつながる。全ての球児が目指す 「頂点」 は、スローガンが掲げる前の2項目を踏まえて目指すものだと、監督の阿部大樹は強く信じている。 大工(だいこう)(大曲工)野球部のまとまりの良さは、日々の練習や活動から垣間見える。たとえば、この冬ずっと続けてきた徹底的な走り込みだ。長靴を履いて雪のグラウンドを10周し、学校そばの坂道を20本、ダッシュで駆け上る。休日の練習では、塁間 (約30メートル) のダッシュ20本がさらに加わる。誰からともなく声が出てくるのは、主に塁間走の終盤だ。「最後の1本、みんなで元気出していきましょう」。最後まで走りきると、互いに腕を上げてタッチし合い、目の前の仲間に拍手を送る。一人1キロのご飯を夕食で食べた2月の地元合宿では、余裕のある上級生が比較的食の細い下級生のご飯をこっそりと食べる場面もあった。目配せし、先輩が茶わんを受け取るのだ。阿部はそれを黙認した。チームワークの発露だと思うからだ。食べきれないご飯を前に涙目になる部員もいた。それでも、部から身を引く生徒は誰一人いなかった。日ごろからとびきりの笑顔を振りまく主将の岡本昌真(2年)は言う。「自分に負けたら成長はないと思う。仲間がいるので、笑い合いながら助け合って全員で乗り越えられる」。結束が個を高め合い、それがチーム全体の力量を伸ばす−−。チームの輪の中心にいる岡本の考えは、部員たちも分かっている。今春卒業した前主将の田代大智は、かつて自身が引っ張ったチームと比較して言う。「個々の力は自分たちの方が上だったと思うが、結束力は断然今のチームが上ではないか。粘り強さはチームワークから生まれている」。競い合い、伸ばし合う投手陣の 「二枚看板」 も、阿部の目指す好機は少なくてもそれを 「どこからでも作れる打線」も、チームワークを発揮すればさらなる力が期待できる。大工野球部は、果たしてどこまで全国で通用するのか。答えが出るのはもうすぐだ(敬称略)【中村俊甫】。